社長だより vol.36

【“ごっこ”がつく】

  「朝から底冷えがして、暗い雲の下に町全体が静まり返っているような刻(とき)が過ぎたが、七つ(午後4時)過ぎになって雪が降り出した。師走に入ってから二度目の雪だった。雪は、夜になると急に勢いを増して、切れ目なく降り続いた。・・・下駄にすぐ雪がくっついて歩きにくい。菊四郎は立ち止まって足踏みをし、下駄の雪を落とした・・・・ご存知藤沢周平短編小説、「雪明り」の冒頭部分。

 “下駄にすぐ雪がくっついて”、とあるが、鶴岡出身の同氏ならではだ。確かに“ごっこ”がつくと歩きにくい。この“ごっこ”、特に気温が低い時についたと思う。子供のころ家にあった箱ぞり、立派にできていてうらやましがられた箱ぞりであったが、そりの部分に鉄板を打ち付けてあった。寒ければ寒いほど、そりにこの“ごっこ”が付いていたと思う。横倒しにして根こそぎ取らないと直ぐに“ごっこ”が大きくなり、真っすぐ進めなくなり、重く煩わしかった。周りの箱ぞりは鉄板の代わりに竹を割って先をあぶって曲げたものを張り付けており軽くてよく滑り、子供ながら羨ましく思ったものだ。下駄

  “ごっこ”の語源を探したがわからない。こぶができて、歩く“とごっ・ごっ”との感触音があることから、この“ごっ”に秋田の語尾に“こ”を付ける癖がついて“ごっこ”になったのではないだろうか。ちなみに、こぶの語源も調べたが、“ごっこ”に近い呼び方はなかった。
 下駄箱に、母親から高校時代に買ってもらった新品の桐の下駄と爪皮(つまかわ)を掛けた足駄がある。しんしんと降る雪の中、音の消えた町を足袋をはき、雪道を歩いてみようか。

  雪が降ればなぜかふっと子供時代がよみがえる。ストーブにあたって切り餅の木口を煙突に当て、上から下へ引くと熱さと力加減もあるがとカンナ屑よろしく“しゅー”と「極薄の餅」ができた。失敗すると焦げたにおいで怒られる。郷土の偉人、アラビア太郎は「おかゆの鍋のふきこぼしが乾いて薄紙のようになっているのにヒントを得てオブラートの製法を発明したという*」。今思えば親の庇護のもと安心した生活があったのだろう。雪が降るとそんな郷愁がよぎる。今年は膝が痛く、窮屈な格好で十分な雪囲いもできなかった。父親は何と思っているだろう。
 *秋田経済11月 特別寄稿 田中玲子 私の尊敬する人より

 先月、【音・色・いろいろ】の拙文に対し、東京のW氏から『ウォークマンから聞こえる印象的な色の歌の一つ「夢一夜」の“紅をひく”がどうにもへばりついてしまった』とあり、2番の歌詞が添えられていました。

 09_48② ♪恋するなんて 無駄なことだと 例えば人に 言ってはみても 貴方の誘い 拒めない
   最後の仕上げに 手鏡見れば明かりの下で 笑ったはずが 影を集める 泣きぼくろ
   貴方に逢う日の ときめきは 喜びよりも せつなさばかり
   ああ 夢一夜 一夜限りと言いきかせては 紅をひく
   貴方を愛した はかなさで 私はひとつ 大人になった ああ 夢一夜
   一夜限りで醒めてく夢に 身をまかす

     「夢一夜」 作詞 阿木燿子 作曲 南こうせつ 唄 南こうせつ

切り絵、“冬の佇まい”と窓越しの来訪者

平成29.12月