社長だより vol.52
【待ち遠しい】
起きたら「はだれの雪」だった。“雪だよ”、“まだ降るんだね”と、短い会話。いつも通り新聞を読みながら二人の朝食。“4月の食べ物ってなんだっけ?”と聞いたら、 “筍”という。“まだ先でない?”と言ったら“もうすぐ店頭に並ぶよ”と明るい声。筍は確かに季節物だ。それも旬がかなり限られている。いくら今年は季節が早いと言っても早過ぎるのではないか、と思ったが、黙っていた。もし今店頭に出るとしたら、伊豆あたりの南向きの斜面にある孟宗竹だろう。家内は筍が大好きだ。米のとぎ汁でごぼごぼゆでているあの“ぷーん” という匂いが待ち遠しいようだ。
私はたいして筍が好きというほどでもないが筍料理は色々食べさせてもらっている。中でも短冊切りの筍と豆腐を3センチ角・厚さが1センチぐらいのものを油で揚げ、豚肉を入れて味噌あえしたものは大好きだ。子供たちもその味を記憶しているらしく、時期になれば送っているようだ。筍はしなっとしているがカリッとする歯触りを感ずるから妙だ。
子供のころ親に連れられ、汽車で東北線を上ると車窓によく竹林が見えた。秋田ではなかなか竹林というものを見ることがないのでその地域性というものをずっと感じていた。特に孟宗竹林はなかなか見当たらない。2か月に1~2回、二人で由利本荘市にある塩化物強温泉に浸かりに行く。その浴場は南向きだが、孟宗竹林の小山の斜面が間近かに迫っている。たまに差し込む光が竹林の揺れで湯船にキラキラ影を作っている。 湯船を独り占めにした時は日本画家になったり、時代劇の主役になったりゆっくり想いにひたっている。
入社して2~3年頃だったと思う。勤務後の楽しみ、二組で麻雀をしていた時、誰かが“明日筍狩りに行こう”と言った。回りも“行こう・行こう”となった。親戚に営林署の人がいたことを思い出し、電話をすると“案内するよ”と快諾。翌土曜日、3台の車に分乗し旧比内町にあった分署に向かった。全員にヘルメットを渡してくれ、いざ十和田のネマガリダケがり。専門家?の後ろをついて行くだけでいくらでも採れた。一応クマよけで鈴を渡されたが、昨今のようなクマ被害の心配もなかった。昼食でそのネマガリダケでの味噌汁。出汁も出て四十年たった今もこの舌にその旨さがしっかりと記憶されている。袋一杯の収穫で意気揚々全員帰途に就いた。
ところが、社長から大目玉を受けることとなった。前日の金曜日に鹿角から合流したS君が比内の直線道路でスピード違反の取締りにひかかってしまったのだ。出発時、大館に全員が集まることにしていた。しかし最後のS君が来ない、来ない。誰か迎えに行くか、そんな話をしているところにやっと来た。S君から説明を受けて、みんな“馬鹿だなー”と笑ったのだが、社長から“なぜ違反をするような運転をするのだ”と、全員が懇々と諭されたのだ。今でも筍というとこの一連の出来事が思い出される。S君は元気だろうか。
我家は、今白梅が満開。山菜にはまだ早いがゼンマイ・こごみ・たらの芽・わらび・山うど・あざみ等、土の声の合唱が聞こえてくる。今ではわらびを採るくらいしかできないが、深い雪の後出てくるのでいじらしい気持ちになる。家内はたらの芽を食べたいという。私は“ふーん”と相槌を打つが今ではなかなか手に入らない。たいしてうまいとは思わないが、秋に業者が枝を切り取り、促成栽培をしたものを買うことになる。なんかばからしくなる。私は“あざみ”の味噌汁が好きだ。待ち遠しい。
平成31.4月