2021.04.01 | エコムジャーナル

エコムジャーナル No.10

 1月の終わりごろだったと思いますが、所属しているフルバンドのバンドマスターからサポート演奏の依頼がありました。2月の終わりに沿岸の方でイベントがあって、そこに出演するビッグバンドで人手が足りないのでサポートにいってくれないか?というのです。
 どうやら震災10周年の関連イベントらしいのですが、あいにく出演する相手方のビッグバンドが人手不足でトランペットセクションにあと2人必要とのことで、こちらに援助依頼が来たようです。まだ岩手県での他バンドなどジャズプレーヤーとの繋がりが薄いので、同好の士を得る良い機会だと考え参加することにしました。

 当日の2週間くらい前であったでしょうか、バンドマスターが「NHKの取材が来るらしいよ」とポロリと一言漏らしたのを聞き逃しませんでしたが、その時はああローカルニュースの取材が入るのだとあまり気にも留めなかったのです。

 当日朝、会場の陸前高田市に向かう途中で立ち寄った朝日を浴びた大船渡の海は静かで眩しく、空気は内陸部とは違い春を想わせるほど暖かでした。

 他のサポートメンバーと合流して今回の現場である奇跡の一本松ホールに到着。このホールは去年の暮れにオープンしたばかりの新しいホールで、大きさもコンパクトで天井も高く、自分たちのようなアコースティック音楽をやるにはとても丁度良いステージです。サポートメンバーの面々と「音抜けよさそうだし、ビッグバンドだったらPA(音響装置)はいらないんじゃ?」などと舞台袖で雑談していたところ、大船渡のビッグバンドのバンマスが挨拶に来られたのですが、後ろにテレビカメラとでっかいマイクを持ったNHKのスタッフを引き連れている。その時は、もう収録始まっているのかと不思議に思っていたのです。
 が、バンマスの説明によると、
① イベントではなくて震災10年特集番組の1コーナーになっているドキュメ ンタリー収録である。
② 全国放送の音楽番組である。総合司会は渡辺謙さん。
③ 私たちの任務は平原綾香さんとボブ・ジェームスさんのリモート演奏におけるバックバンドである。
④ 最後に渡辺貞夫さんのリモート演奏のバックで「花は咲く」を唱和。

 セッティング済みのステージに既に設置してある、譜面台に1本1本セットされている高価そうな集音マイクを、バンマスの説明を聞いた後に見つけたところでようやく認識しました。「これはシリアスなやつだ。」
 音響装置で収録した音量を調節するので、音の大きさなどは問われることは少ないかもしれないけど、ピッチ(音程)やアンサンブルタテの細かい部分までかなり厳しいところを要求されることを覚悟しなくてはならない、といいますか昔知人のトランペット吹きからNHKさんの収録は厳しいって話をしていたのを今さらながら思い出していました。

 そこからの動きとしては、場所を変えてのセクション練習の後にステージでのリハーサルで午前中を終え、午後から収録という流れでしたが、四六時中カメラが付いてきていまして落ち着かなかったです。仕方のないこととは十分に承知しているのですが、私が個人でおさらいしているところにカメラとでっかいマイクを至近距離にて向けられて、カメラマンの方に「吹きにくいですかー?」と振られた時はもはや苦笑するしかありませんでした。

 収録は1曲だけだったのですが、その内容は結局3時間6テイクにも及びました。1つ1つの収録の中で自分が出来なかったことというのは自分自身がよく分かりますので、1回の収録後にプロデュース担当の方に心当たりを指摘されると、さすがに申し訳なく思います。サポートが足を引っ張ってはさすがにまずいですから。

 それでも何とかOKをもらう事が出来てほっとしていた矢先、NHKのスタッフの方から今度は一人ずつ自己紹介を収録するとの事で、すぐに自己紹介が始り多くの方が震災にまつわる想いと今回の収録に対する意気込みを兼ねて短く語られていました。私が陸前高田市に初めて伺ったのがちょうど1年ほど前でした。当時はさすがに瓦礫や破壊の痕跡は跡形もなく消えていましたが、箱物の施設以外は未だ何も戻らない地の真ん中に立った時、その破壊のあまりの広大さを感じて慄然とした思いを持ったことを憶えています。
 そうこうしているうちに私の順番が回ってきました。この手の人前での一人語りが大の苦手である私なので、ドキドキを通り越してかなり目が泳いでいたと思いますが、自分なりに正直な気持ちを口にしたつもりです。「まだお会いしたことのない岩手のジャズプレーヤーの方と一緒にプレイできることを本当に楽しみにやってきました。」私自身もほんの微細ではあるにしても、取るに足らないながらも岩手の方に少しでも好ましい変化でありたい、という気持ちをそこに込めました。

 今回のサポート演奏について私が選ばれたのは、所属バンドのバンドマスターの推薦だと大船渡のバンドマスターから聞きました。それもあって北上市に戻ってからこちらのバンドマスターにメールで報告を入れたところ、返信に「他のバンドのメンバーと交流できてよかった」とありました。随分と私に気配りをしていただいたのだなと感謝した次第です。

 岩手県北上担当のKでした。御拝読いただきありがとうございました。