2022.09.01 | エコムジャーナル

エコムジャーナル No.26

 岩手県北上担当のKです。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 この度も私のジャズなど音楽にまつわる、個人的な小さな出来事から感じたことを書いていこうと思います。しばらくの間お付き合いいただけましたら幸いです。

 2週間ほど前のことです。北上市にはさくらホールという、素晴らしく設備が整ったリハーサルスタジオが併設されている施設がありまして、その日もいつもの休日の過ごし方としての楽器練習をと来てみたのですが、ホール入り口あたりを中心に何やら人だかりができていました。後で聞いたところでは施設主催の盆踊り大会だったそうです。
 これは何だろうなと訝しげに思いながら人や出店を回り込みながら歩いていると、顔見知りである隣接市のスーパートランぺッター氏がいらっしゃるのを発見。あいさつがてらに「これは何をしているの?」と聞いてみたところ、氏、満面の笑顔で「Kさんコソ練ですか?注:コソ練とはこそこそ練習するという意で、アマチュアビッグバンド界隈ではなぜか個人練習をこう表現することが多い。いいからこっちへ来てください。」と連れていかれた先がステージ脇の楽団ブースということでして、そこには見知った顔もちらほらと見られました。言われるがままケースから楽器を出し、結局飛び入り参加ということで急遽盆踊りの生演奏をさせて頂くこととなりました。

 岩手県に生活拠点を移す以前はこういった夏祭りバンドの演奏というのはちょくちょくと参加させていただいていましたので、当時を思い出しながら楽しく参加させていただきました。盆踊りなどの参加型のお祭りは皆さんノリがよく、何をやってもウケやすいので、演奏する側もついつい羽目を外した演奏をやりがちです。自分もやりすぎないようにと気を付けてはいたのですが、後になって思い起こせば、うんちょっとやりすぎました。

 音楽に限らず人前で自己表現をするという行いは、そのイベントの趣旨や規模の大小にかかわらず、その行為自体が地域の文化活動の一端を担うことになるという側面を避けることはできないと私は考えています。
 コロナウイルス以降、こういった生産性に直結しない文化行為の価値が少しずつではありますが確実に低下していることを日々感じています。直接体験ではないリモート体感が価値を日々重くしていくということは、結果的として何かに自分の意志で何かに直接的に参加するという機会を阻害することになるのではないのかと私は感じるのです。

 以前取り上げさせていただきましたジャズ喫茶のマスターがこの春にお亡くなりになられました。体調がよろしくないことは私も承知していましたが、直前までほぼ毎月お店に伺わせていただいては少しの時間だけお話をさせていただいていまして、訃報に接してから今日まで、時々そのことを思い出したりもします。
 自分なりに大事にしていた場所ではあるのですが、お店も閉じられることとなりました。

 岩手には、別の土地から移ってきた私が驚くほどにポテンシャルが高いジャズ文化があります。先達が育ててくれた豊かな森を守りつつ、新しく木を植えていくのが後に続く世代の責務なのだと思います。

 今回の一枚

「In a Sentimental Mood」 本田竹広
本田竹広(ピアノ) 井野信義(ベース) 森山威男(ドラム)
曲目:①Mr. P C ②Misty ③チェニジアの夜 ④Body&Soul ⑤枯葉 ⑥Once I Loved⑦In a Sentimental Mood ⑧Everything Happens To Me

 岩手県宮古市出身、2006年に若くして逝去された伝説のピアニスト本田竹広さんによる
1985年の作品です。この3人の組み合わせは日本ジャズの頂点の一角を占めると言って
も大げさではないと思います。⑥はアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲ですが、この
演奏には特に圧倒されました。
 本田竹広さんと直接接点があった方が私の周囲にもいらっしゃり、日々お話を伺っては耳
に親しんでいます。

 今回はここまでとさせていただきます。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。