2023.04.03 | エコムジャーナル

エコムジャーナル No.33

【黄色の花たち】

 三原色の中でも、黄色はやわらかくて暖かい感じを与える。幸せの色と言ってもよい。子供の名前にある花の名をいただいた。まだ、私と一緒に寝ていた時、しきりに自分の名前の由来を聞かれたことがあった。『人の気持ちがわかる、心がほんわかする優しい人間になってほしい、と願ってつけたんだよ』、と話した。その時は私の思いも伝わらなかっただろう。今はどうか聞いたことはない。私はその花の前を通る時、いつもそのことを思い出す。

       マンサク

 2月になると、3種の黄色い花たちをひそかに待ち望んでいる。
 雪も消えやらぬ早春にマンサクが咲く。錦糸卵のような1センチぐらいの縮れた花(がく)が開く。つい見とれてしまう。父が鉢植えしていたものを下したものなので1メートルぐらいで樹高が止まっている。
 少し遅れて蝋梅(ろうばい)が咲く。字の通り、蝋細工のような薄黄色で下向きに恥ずかしそうに咲く。本当に目立たない花だ。そばに行くとほのかに柑橘系の香りが漂う。“おや、咲いていたのか”、と言葉をかける。
 そして、フクジュソウ。拙稿が掲載されるときは花が終わっているだろう。植え替えが面倒なので昨年庭に下した。フクジュソウの根はまるで細い針金が絡まったような異様な根だ。そこからあの黄色の花が出てくるのだから不思議だ。

 「和の色辞典*」を見ると、色の微妙な違いに名をつけて、言い分けていることにおどろく。「向日葵色(ひまわり色)・うこん色(絵画を包んでいる布)、サフラン色(アヤメ科・日本には明治時代に輸入された・春咲きの黄色の花をクロッカスと呼ぶ)*」など多くの色名が日常の生活に深くとけこんでいる。日本人はけばけばしい原色を好まない。きっと温和な風土の中で草花の染色技術が相まって中間色に対する色彩感覚を磨いた結果なのだろう。

 20年近くも前に、金沢市立美術館にふらりと入ってあの『黒船屋』に出会ったことを今も鮮明に覚えている。黄八丈と思しき着物をまとい、「黒船屋と書かれた縦長の箱に腰を掛け、黒い猫を膝に乗せて両手で抱きかかえる*」、だれもが知る武久夢二の最高傑作だ。伊豆八丈島特産の刈安で絹地を染めた色と言われる。

 *引用 和の色辞典 ㈱視覚デザイン研究所