2023.06.01 | エコムジャーナル

エコムジャーナル No.35

【堂堂】 

 小学館の新選国語辞典に堂堂を「つつみかくしのないようす」、例として『正々堂々』とある。これをまさしくマイ畑で体験した。

 家内と車から降り靴を履き替えていた時、二人の足元から2メートルもないところを、ネズミをくわえたキツネが何のてらいもなく、一瞥もなく二人を無視して悠々と歩いてゆくではないか。しっかりとした体つきだ。畔に入りなおもネズミを探しながら南へ約50メートルは進んだろうか。左に折れて相変わらず悠然と歩いてゆく。こんな光景はNHKの「北海道、おおいなる自然」あたりで、隠し撮りでもなければ決して見ることはできないだろう。今でも夢ではないかと思っている。

 小学生のころ、父に国鉄の安月給で、名前は忘れたが「小学5年」とかの月刊誌を買ってもらっていた。私の狙いは付録にあった。今も忘れられないものに、東京タワー・当時世界最大のタンカー日章丸?がある。東京タワーは組み立てると高さは優に1メートルはあったろう。日章丸も両手で抱えなければ動かせない大きさであった。まさに堂々たる付録だった。完成したときの満足感がたまらなかったことを覚えている。もちろん素材は紙だ。今は月刊誌が残っているのだろうか。そして、日章丸のような付録があるのだろうか。

 この歳になり、今までの過ごし方を見て、正々堂々たる生き方であったろうか。よく「我が人生に悔いなし」と冊子に書いてあるものを見かける。うらやましい限りだ。翻り、目をつむってやり過ごしてきただけではないか。ないものねだりの人生ではなかっただろうか。日経の「交遊抄」を読んで、毎回、飾らない人生に人の何たるかを気づかされる。

 あのネズミをくわえたキツネの正々堂々たる歩き姿、“どんなもんだい”と歌舞伎役者にも似た大見栄を切ったあの光景は忘れられない。