エコムジャーナル No.41
【しぐれ】
『庭一杯に散った落ち葉を濡らして、時雨の秋の名残を惜しむように降るころだ(*)』、
と書けばいかにも瀟洒な庭にもみじが散り、歩けばかさかさとしっとり落ち着く風情があるように聞こえる。
しかし、この頃我が家の庭木は長年面倒見てもらった庭師さんが亡くなり荒れ放題に近い。私も以前に比べ選定もほとんどせず、落ち葉も裏山から飛んできたものだ。ただただ面倒で片づけてないだけだ。
今年は暑さが居残り、秋はそさくさと過ぎてゆく。
時雨と聞くと「北山しぐれ」が浮かんでくる。降る範囲は非常に狭く、京都がよく似合う季語だ。浮世絵に北山杉に降る時雨の絵がなかったろうか。傘をすぼめて急ぎ足の旅人の絵がなかったろうか。時雨は本来急に雨がパラパラと短時間降る雨だが、9月10月の時雨は木の葉を色づかせ、今時分の時雨は秋の終わりから冬の初めの雨で木の葉をちらす。
芭蕉の有名な句に「初しぐれ 猿も小蓑(こみの)を 欲しげなり」がある。
秋田での時雨は雪が降るまでのわずかな時間だ。天気をにらんで雪囲いに精を出す時だ。しかし、冒頭にも書いたが、何事にも面倒が先に立ち、雪囲いも棒や縄など材料を出すだけで、「疲れた」と先送りとなる。今年は玄関前の庭だけは屋根からの落雪もありなんとかかんとか終わった。
父は生前、雪囲いが終わると母に「やめ ほろった」と言っていた。『やめは病(難儀) ほろうは衣服についたごみなどを払う』、「毎年のことだが難儀な雪囲いが終わった」という意味だったんだろう。この歳になるとよくわかる。
今年は初雪が11月24日にあった。例年、11月の雪は20センチぐらい降る。「これから雪かきが始まるぞ」と覚悟を決めさせる雪だ。昨年ヤマハから我が家に来た冬の出稼ぎ、“青のかきたろうさん”、元気で頑張ってください。今年の雪は多いのだどうか。気がもめる。
(*山本健吉 言葉の歳時記 しぐれから引用)