2025.02.03 | エコムジャーナル

エコムジャーナル No.55

【気どる】

エコムジャーナル、昨年12月号に【気になるこの頃の“風習?”】として「ら抜き言葉」の定着を「苦虫をかみつぶした」思いで書いた。皆さんはどう感じただろうか。

『文春文庫 巻頭随筆*』を何気なく読んでいたら劇作家の宇野信夫(うののぶお)氏の「ことばについてとりとめなく」にこんな記述があった。『ちょっと頭へ浮かぶセリフを書いてみると、「着かえる」をほとんど全部の俳優が「着がえる」と濁っている。「見られる」を「みれる」、「来られる」を「来れる」と、すべて「ら」は取ってしまっている』とあった。この文庫は1979年の発行であり45年も前の話である。

同文庫に作家の杉森久英(すぎもりひさひで)氏の「ことばのいろいろ」がある。「はばかり」という言葉を聞いたことがあるだろうか。“わかるよ”という方は結構おとしをめされている方であろう。
『このごろはお手洗いと言えばどこでも通用する。一見古語のように見えるが、古語ではあるまい。古語には「手水」(ちょうず)とか「御手洗」(みたらし)はあるが、「おてあらい」はない。これはきっと「トイレット」からきたものであろう。「クラブ」を「俱楽部」と書くと同様、だれか頭のいい人の創意であろう。』 私は最近外では気取ってお手洗い、と言っている。

さらに同文庫に俳優の小林桂樹(こばやしけいじゅ)氏の「俳優は“良い男”?」があった。同氏は素人っぽく、朴訥、いや、何でも気さくに相談できそうな心に残る人だ。
『私の錯覚の美貌が一瞬にしてくずれさったのは、5千人もの応募者の中から選ばれ、撮影所の俳優テストに合格した、その得意絶頂の直後である。時、昭和十六年4月…「君は元気がいいから合格したのだよ、おめでとう‼」と審査員選後評。何がオメデトウだ‼ 俳優の合格が、ただ「元気がよいから」だけなのか‼ 嗚呼なんたることだ‼』

                                  近藤 嘉之

*文春文庫 巻頭随筆(第5版) 株式会社 文藝春秋