2024.08.01 | エコムジャーナル

エコムジャーナル No.49

【三色の涙】

 パリオリンピックの序盤戦で多くの人が「三色の涙」を見たと思う。柔道女子48キロ級の角田選手、同52キロ級の阿部詩選手、そして競泳女子バタフライ池江選手の三人の涙だ。言葉で書けるほど生易しい涙色ではない。

 最初の色は柔道界では異色ともいえるともえ投げを極めた角田選手。東京オリンピック選考会で最後まで代表を争った高校生の阿部に敗れた。思いを断ち切れず階級を落として今回31歳で金メダルとなった。挫折を克服するには代表から押し出された屈辱、押しつぶされる悔しさ、減量の大変さも本人から話が出たが金メダルの涙は、“うれしい”の言葉とは裏腹に見返した涙であったろう。奇襲の技で金メダル獲得。悔しさはまだ残る。

 二人目の阿部選手は前回東京で金メダル。今回は押しも押されぬ金メダル候補。さらに兄妹でオリンピック金メダル連覇の期待が話題となっていた。しかし、衝撃的な2回戦敗退。決して油断はなかっただろうが、一瞬の出来事。兄妹での連覇がなくなった。この重圧から号泣は体育館に響き渡り、畳を降りてもやまず、会場を抱きかかえられ退場につくもなおつづいた。兄は金メダル獲得、次のオリンピックで兄妹の金メダルを妹に誓った。

 池江選手は白血病で一時選手活動を断念したが、病魔を克服し今大会出場を勝ち得た。しかし、個人バタフライは全体12位で決勝には残れなかった。インタビューで「今までなんのために頑張ってきたのかわからない・無駄だった」と震える声で大粒の涙を流した。体も一回り小さくなった彼女にはこれが精いっぱいの「挑戦」と思う。次回のロスに戻るとは言うが、これ以上望むのは酷であろう。というか世界の難病を抱える患者へ勇気を与える活動がのぞましいのではないだろうか。

 翻って自分が流す涙はまさしくセピア色の涙だ。ドラマで親子が和解するようなシーンになると、うっかりと涙がにじんだり、うかつにもポロリと落とすことが多くなった。この歳になればただ追憶に浸り、三人の涙をうらやましく肯定してしまうだけだ。

                                     近藤 嘉之